『インフリ!!』





  第2章












  「それで、なんなんだ? 何が言いたい?」


  第九艦隊旗艦主計長カッツェ・ナコルは不機嫌の極みにあった。
  艦隊の特に荒くれたちがひしめく下層甲板を事実上取り仕切る彼女の不興を買うのは、何かと得なことではない。部下に休みなく指示を与え続けている彼女の鬼気迫る形相は、ただでさえ眼帯を当てた海賊のようなこわもてのうえにここ何日かの極度の睡眠不足が重なって、まともに見返すこともはばかられるほどである。その手に握られている、懲罰用の鞭も、対面者には脅威を与えずにはいない。


  「しょうがないじゃない! こっちだって好きでこんなこと言ってるわけじゃないんだもん。文句あるなら艦長にゆってよ、あたしだって…」
  「このありさまを見て分からんのか。船倉はこの通りめちゃくちゃで、元に戻すだけでも大仕事なんだぞ。いったい誰のせいでこうなったか、覚えてないとは言わさんぞ」
  「ともかく命令に背くと、上官抗命罪に…」
  「こっちだってやれるだけのことはやっている。…たく、うちの提督閣下ときたら」


  主計長の言い分には道理がある。物資搬入の責任者でもある彼女が、戦地へと向かう艦隊の巨大な胃袋を満たすべく全精力を傾けてその仕事に当たっていた一昨日、いきなり前代未聞の珍事が出来したのだ。出港までまだ二日を残していたはずの旗艦カーリカーンが抜錨、艦隊錨地から漂い出してしまったのである。
  管制局の許可もなく行われたカーリカーンの出港に、むろん錨地は大騒ぎになったのだが、なによりもその事態に被害を被ったのは、荷揚げ通路を切り離されてしまった主計長以下物資搬入に当たっていた面々だった。
  前触れもない突然の切り離しに、コンテナどころか作業中の人員までもが宇宙空間に放り出されて、彼女らはあやうく宇宙ゴミの同類になりかけたのである。仲間同士の懸命の救助で死人こそ出なかったが、搬入すべき物資の詰まったコンテナはそこらじゅうに漂い出すし、以後新たな物資を運ぶ際、わざわざ輸送艇を使って運び込まなくてはならなくなったから、作業量は一気に数倍にふくれ上がってしまったのだ。
  むろん主計長のカッツェは、すぐに旗艦艦長ドヌーブに噛み付いたが、事情を聞かされるとさすがに二の句が継げなくなった。怒りを向けるべき相手は旗艦艦長ではなかった。


  「新任の副官を逃がさないために、提督が出港を命令した」


  ようは新米の副官が逃げられないように錨地から艦を離してしまえ、という乱暴な発想のもとに行われた出港だったのだ。錨地から艦が離れてしまえば、宙軍当局の権限はすべて艦隊司令が担うことになる。着任早々職場放棄しようなどという愚かな子供相手に、ずいぶんと大袈裟なことをやったものである。そのために物資搬入班は、ここ何日も不眠不休の努力を続けているのだから、「やってられない」と思うのはしごく当然なのであった。


  「船倉の整理にはまだ当分かかる。そのあいだ料理の素材が少なくなったって、こいつは不可抗力というものだ。文句を言ってくる奴がいたらわたしに言え、二度とそんな減らず口をきけないようにしてやる」
  「苦情を言ったのはドヌーブ艦長(裏)よ。抜錨したはいいけどやることがなくて昼日中から全開『酒乱モード』なんだから! ねじ込めるのならやってみてちょうだいよ。そんなの、絶対無理なんだから」


  ドヌーブ艦長(裏)と聞いて、カッツェのこわもてがいささか改まる。


  「…足りないもんは何だ?」急に協力的になったカッツェのようすに、相手は「当然」といわんばかりに鼻を鳴らした。
  「用意してほしいのは……ええっと、ムートン産のワインに、油漬けサーディン、それから…」
  「高級士官用の一種食料はたしかあっちの隅の銀色のコンテナだ。人も貸してやる。勝手に欲しいだけ持っていけ」
  「分かってくれてありがと、カッツェ」
  「航海士がつかいっぱしりの真似事とは、艦橋はよほど暇なんだな」


  緑色の髪が跳ねて、駆け出そうとしたチュチュ主席航宙士が振り返った。データ端末になっているゴーグルをはずしたその顔は、二十半ばとはとうてい思われないほど幼いそばかす顔である。


  「なにいってんの、艦橋だっていまはここに負けないぐらいてんやわんやなんだから! 今度のことであたしらがどれだけの量の情報を捏造したのか知ってるの? …うちの提督閣下はホント、いくさの指揮は神がかってるけど、プライベートはからきし、子供みたいに手がかかるんだから」
  「まあ提督が今回の愛人選びにどれだけ熱心になっていたかはみな知ってるからな。それについて真剣に怒るやつはいない。…それにしても、士官学校も因果を含めておかないとはまったく怠慢だ。キャッツランド女が、男をひとり独占しようというのがどれだけ大変なことか知らんのか」
  「まあなんにせよ、無茶やっただけのことはあったみたいよ。なんたって艦が出港したいまとなっては、手に入れた愛人を煮るのも焼くのも提督の思いのままだしね。いまはまだ懲罰房のなかでガンバってるみたいだけど、日参する提督に情もだいぶほだされてきてるようだし」
  「しのごのいわせずに力ずくでヤッてしまえばいいんだ」鞭を片手に抱きすくめる真似をする(力強すぎてサバ折りにしか見えないが)カッツェに、チュチュは半歩後ろに下がってにやりと笑った。
  「商売男を相手にするわけじゃないんだから、あんまり乱暴なことも出来ないっしょ。かなうなら航海のあともむつまじくそういう関係でいたいだろうし」
  「まだるっこしいことだ」
  「ともかく、ほしいものはもらっとくよ。コック長が青くなって震えてっから、早くもって行ってあげなくちゃ。…ちょっとそこのあんたたち、そうそう、あんたとあんた。ついてきてちょうだい!」


  乱雑に積み上がったコンテナの谷間を、チュチュが人足をかき集めながら駆けて行く。
  それを腕組みして見送ったカッツェが、続々と運び込まれるコンテナ群に目を戻して慨嘆した。


  「あの酒乱艦長にも困ったもんだけど、あの提督閣下が十五の子供にめろめろかい。暇ができたら、あたしもひとつ見物に行ってみるかね。すこしは目の保養もしてやらないとね」




  * * *




  キャッツランドは、地球由来の移民によって興された国家である。いわゆる殖民星系であるのだが、多くの殖民星がそうであったように、国家としての実力を蓄えてのち地球より独立した。
  恒星ビマータをめぐる三つの惑星を途方もない労力を費やして開拓した彼女たちの祖先は、地球文明から放逐された流民だった。




  人権擁護団体が「銀河連邦史上最大の汚点」とするキャッツランド星の誕生は、銀河統一暦七八九年にまで遡る。そして婦人連合が「人類女性に対する最大の侮辱」としたキャッツランド人の誕生は、さらに遡ること百余年、六七二年のことである。
  キャッツランド人は、その身体的特徴、なによりその名の示すとおり、地球種猫の遺伝形質を持っている。そのように自然進化したわけではなく、人の手によって強引に作り出されたのである。
  外見は人類のそれに酷似するが、ふっさりした耳と収納可能の鋭い爪、なにより弱光下で発揮される暗視力が彼女らの特異性を示している。
  大きな瞳と貴族的に整った顔立ち、そして筋肉質でよくしまった抜群のプロポーション……キャッツランド人はもともと「猫」という獣から二足歩行種族へと創りかえられた、直截な言い方をすれば高度な文明社会で求められるままに作り出された愛玩動物の変種であったのだ。
  猫族特有のしなやかな姿態、端整な顔立ち、魅惑的なまなざしを備えた彼女らは、創造主たちをたちまち虜にしたという。愛玩の延長には、むろん性人形としての意図も込められていたことはいうまでもない。
  当初この猫人種は、女性種しか存在しなかった。需要がそちらにばかり集中したのもその原因のひとつであったが、開発者グループがゲイを認めない世界宗教の信者たちであったことも女性種偏重に大きく影響したといわれる。猫人種は人類男性のみだらで淫蕩な視線と、人類女性の羨望と憎悪を集めた。
  恋人、配偶者を奪われた女性たちは、製造者たちを厳しく弾劾し、その製造を半世紀に渡る訴訟紛争を経て停止に追い込むのだが、人類に劣らない知性を持った猫人種らを大量処分することは人道上さすがにためらわれた。かくして猫人種たちは辺境惑星へと放逐され、ついで種の存続が可能な程度の男性を作って与えられた。これがキャッツランドの誕生である。
  キャッツランド人にとって悲劇であったのは、放逐にあたって、人類男性が血迷わぬように、猫人種たちにさらなる遺伝改造が施されたことである。
  彼女たちの身体特性は、生殖行為においてさらに特殊化を促された。






  宙軍中将ニーナ・ニオールの率いる第九艦隊が、キャッツランド大錨地をはなれたのは銀河統一暦九九八年八月二四日のことである。
  その作戦行動のようすはキャッツランド星の全放送ネットワークに配信され、国民の誰もがお茶の間にいながらにして見ることができた。その放送の合間に、キャッツランド王国女王府発の声明が発表され、国民の多くがその勇壮な出撃シーンに興奮して全身の毛を逆立てた。
  ジェイニー・レダー女王は、紛争相手国の誠意のなさを糾弾し、星系国家として断固たる態度をもって当ると言明した。その国家としての断固たる態度というのが、この艦隊出撃であり、女王の支持率はこの艦隊出征に前後してうなぎのぼりに上昇した。
  星間戦争……宇宙という無限の土地を手に入れた人類に、領土をめぐって争う必然性は薄れている。ほとんどの問題が外交折衝で折り合いがついてしまうこの時代に、星間国家同士が衝突するというのはよほどのおおごとである。
  その開戦のきっかけとなったのが、まさか女王個人の痴情のもつれであったなどとは、他星系の人間ならばとうてい信じられないことであろう。ある報道機関が「まことにキャッツランド的」と評したのは、ことの核心を正確に射抜いている。
  キャッツランド人ならば三歳の子供でも知っている、キャッツランドの国民的アイドルであり、女王その人の公式な愛人でもあった(キャッツランドには『結婚』という概念はない)チーニー・フェンネルが、外洋交易船に密航し、近邦のモンク星へ亡命をしてしまったことがそもそものことの発端だった。
  見事なシャムミルクの巻き毛、夢見るようなスミレ色の瞳をした絶世の美貌、星系の至宝といわれ、また女王の愛をその全身に勝ち取っていた美少年が、なにを原因にか国外へと逃亡し、それを受け入れたモンク国が再三の抗議をはねのけて亡命を受諾してしまったがために、キャッツランドはモンク国に対して宣戦を布告したのだ。
  わずかひとりの亡命のために、国が戦争を始めるのかとモンク側も考えていたのだろう。やがて彼らは「キャッツランド人の流儀」を肌身で理解するに及んで、おのれの致命的な判断ミスを嘆くことになった。


  「キャッツランド人の色恋沙汰に横槍を入れるのは、自殺志願者と愚か者だけである」


  女王ジェイニー・レダーの怒りは、深甚を極めた。モンク政府は愛人を返還することで政治取引しようともくろんだが、当の少年が捜索を恐れ行方をくらましてしまったために、両国の和平への道は閉ざされてしまう。
  なにゆえにチーニー・フェンネルは、国民的スターの座を捨ててまで他国へと逃げたのであろう……その疑問に答える一枚の画像が星間ネットワークによってもたらされている。
  彼をやさしく抱き寄せて、幸せそうな笑顔をカメラに向けるひとりの女性、名も知れぬモンク星人とおぼしき女性……その彼女に頬を寄せるようにはにかんだ笑みを浮かべたチーニー・フェンネルの姿は、「幸せな家庭」とでもタイトルをつけたくなるようなワンカットである。
  彼がその名も知れぬ異星の女性と結婚したという伝聞は、ほどなくキャッツランドにも伝わった。






  ひそひそと喋りあう声。
  艦体の後部、最下層のあたり。
  巨大な転換炉の程近く、下水処理のバクテリア槽のフタの上とも言うべきところに、規律違反を犯した人間を閉じ込める懲罰房が、ペットショップの陳列された檻よろしく並んでいる。
  パシャリ、と閃光が発されて、薄暗い房内が一瞬あらわになる。その閃光がホロカメラの撮影のものであることが分かると、ひそひそ声が居丈高な叫びにかき消された。


  「だれだ、ホロを撮ったのは! 他にも懲罰房に入りたいやつがいるのか」


  それが下層甲板で鬼と恐れられるカッツェ主計長と並び称される、警衛隊の鬼軍曹のものであることを悟ると、通路にあふれて押し合いへしあいしていた兵士たちがわれ先に物陰に隠れ始めた。
  ケイティ軍曹は愛用の警棒を手のなかでみしみし絞りながら、頭隠して尻隠さずの兵士たちをじろりと睨み据えた。キャッツランド人のたぐいまれな筋肉を極限まで鍛え上げた、生きた芸術品とも言うべき肉体がそこにはあった。


  「そこのやつ、あたしが見逃すとでも思っているのか? 隠したホロカメラをさっさと出すんだ。メモリチップは警衛隊が没収する」
  「そんな、後生です、軍曹殿」
  「副官殿のあられもないセミヌードをおまえがどういうふうに有効利用するのか、目に浮かぶようだな。たまっているのなら下船して発散してこい。出航までまだ一日ある」
  「副官殿はこれからあたいらの守護精霊になるお方です。ホロをお守り代わりに持ってたってバチにゃあ当たらない…」
  「没収だといっている。その耳がただの飾りで役に立ってないのなら、邪魔だろう、あたしが綺麗に引き千切ってやろうか」


  まわりの仲間に小突かれて、その兵士はしぶしぶホロカメラを取り出した。それのメモリチップを取り外して、ケイティ軍曹は本体を兵士に投げ返した。


  「ちぇっ、ほんとうは軍曹殿だって欲しかったくせに」
  「なにか言ったか?」


  ケイティが兵士の尻を蹴り飛ばすと、ほかの兵士たちも腰砕けにぞろぞろと逃げ出した。遠巻きにようすをうかがう彼女らを一瞥し、気に入らぬげにフンと鼻を鳴らすと、ケイティはチップをポケットに突っ込みながら懲罰房の警備につく部下に目配せした。


  「異常はないか」
  「は、提督閣下が参られています。提督の許可がないかぎり、誰ひとり入房は許さないとのご命令です。…軍曹殿?」


  懲罰房は、広く一般の兵士に見せしめる意味合いで、廊下からもうかがい見ることができる作りになっている。照明もつけない、わずかに非常灯ばかりがあたりを照らす薄暗い懲罰房には、種々雑多な形をした影が散在している。それらが菓子袋やぬいぐるみ、まだ包装さえ破られていないプレゼントの数々だと分かるころには、その中心あたりに、前かがみに座り込んでいる人影がはっきりと見えてくる。
  この艦隊の最高権威者たる、提督ニーナ・ニオールそのひとである。


  「いいかげん、機嫌を直してちょうだい。ヴィンチ少尉」
  「………」
  「これ、あなたの好みに合うかしら……ブルーギルの新作イヤリング。本星から急いで送ってもらったの。特別に軍の急送便を使ったのよ。上にばれたら大ゴトだけど……ああ、これが気に入らないなら、こっちなんかどう? スモーク社の極上スモークドフィッシュチップス。わたしがまだ任官したばかりの下っ端将校のときには、上官からほんの少しもらったおすそ分けをちびちび食べるのが関の山で…」
  「自分はそんなものをいただくわけには……本当に困るんです、提督」
  「提督、じゃなくて、今は『ニー』って呼びなさい! …ああ、エディ」


  破りかけた包装を取り落として、ニーナの肩ががっくりと落ちる。居心地悪げに上目遣いするエディエルを恨めしげに見やって、ニーナは雄弁なため息を漏らした。


  「自分にはそんなことをしていただく資格もなにも…」
  「何かほしいものがあるなら、いいわ、なんだってプレゼントしてあげます。あなたが望むのなら、目の前に敵の首を一千個並べてもいいわ。だから、いい子だからわたしの言うことを聞いて、ここから出てちょうだい。わたしはとっくにあなたに対する懲罰を航海日誌から削除しています。鍵もとっくに開いているのに…」 ぶつぶつと、独り言のようにささやくニーナ。不穏な気配だ。
  「…お引き取りください。自分は」 懇願の色を帯びるエディエルの言葉に、ニーナは突然めそめそと泣きはじめた。まるで宝物のおもちゃを取り上げられた子供が、身をよじるような泣きかたをするそれに似ている。天下の英雄が子供みたいに泣くのだ。
  「どうしてわたしの気持ちをわかってくれないの? どれほどわたしがあなたを必要としているか、この胸を切り裂いて心を見せられるものならいますぐにだって見せてあげられるのに! わたしにたった一度、名誉を挽回するチャンスを与えてくれるだけでいいの! もう一度だけわたしにチャンスをちょうだい! お願い!」


  宙軍の象徴でもある立派な将官が子供のように泣きじゃくる姿は、まったく体裁が悪いことはなはだしいのだが、廊下で聞き耳を立てている下級兵士たちに、おのれの上官を責めるような厳しい空気はない。キャッツランドではこれに似たような痴話げんかは茶飯事であり、たいていそうした揉め事は非常に深刻な展開になるものだということを彼女らは常識としてとらえているのだ。そして何より、この第九艦隊司令官は宙軍将官のなかでも水準以上の部下の敬愛をかちえていた。


  「今日中に、少尉殿が転ぶのに十ビマータ」
  「提督の泣き落としもそろそろ本気モードに入ってきたよ。今日中といわず、あと三時間以内に提督の勝ちで二十ビマータ」
  「乗った、こっちも十ビマータ」
  「少尉が転ばないほうに賭けるやつはいないの? 胴元やるやつは?」


  ささやかな賭けが始まった兵士たちのあいだに、ざわめきが戻ってきた。そのうちに注意を喚起する声があがり、彼女たちの視線が懲罰房の中へと吸い寄せられる。


  「鬼軍曹が…」 提督と新米副官の幕間劇に、もうひとりの役者が加わろうとしていた。
  「提督」


  ケイティ軍曹はつかつかと房内へ歩み入ると、ニーナ・ニオール提督の前でかかとを合わせ敬礼する。入室を禁じていた提督に対する無言の「許可申請」である。ニーナは険しい眼差しを命令違反した軍曹に向けたが、その軍曹のぎこちないウインクにやや考えるふうに頷いた。
  ついとそれた軍曹の視線が、房内で膝がかえに坐り込んでいるエディエル・ヴィンチ少尉へと向けられる。
  軍規のとおりに軍における身分を剥奪され、私物以外の一切をその身から剥ぎ取られてしまっている。身につけているのは下着ぐらいで(私物の着替えなら申し立てれば運んでもらえるのだが、どうやらその権利を知らないようだ)、「セミヌード」と軍曹が評したのも事実の面から見て正しいことであった。
  ケイティ軍曹はみしみしと音を立てそうな筋肉を揺すって片膝をつくと、「少尉殿」と低く通った声で言った。
  エディエルは檻のなかで、反抗的な眼差しを上目遣いに軍曹へと向けた。何を言われたって絶対にここから出てやるものかと意地を張る子供のように(実際にまだ子供だが)かたくなな表情である。
  ケイティ軍曹は軍服のポケットから何かを取り出して、エディエルの足元にそっと差し出した。写真の束が崩れて、投影されたいくつかの立体映像が彼のまわりに展開する。
  その映像を見て、エディエルははっとしたように息をのんだ。その白い小さな顔が、みるみる赤面した。


  「これは…」


  そう声を漏らしたのはニーナである。手の届くところにあった写真の一枚を手にとって、もの問いたげな顔を軍曹へと向ける。


  「兵どもが隠し撮りした写真が、艦内いたるところに出回っています。少尉殿は、…その、非常に無防備であられますので、やつらの格好の被写体になっているようです。これらはそのほんの一部。他にどのようなものが出回っているのか、警衛隊でも把握しかねています」
  「…勝手に写真を撮って、売買しているのか?」


  表情を消したニーナのようすに、彼女がきわめて不機嫌になっていることを読み取ると、ケイティ軍曹は鼻を鳴らした。


  「警衛隊でも、鋭意回収中ですのでご安心を」
  「今後この子の写真を所持していたやつは鞭打ち三十回よ。ほんの少しでもこの子が写っているなら、例外なくその対象にしなさい! 鞭打ちの上、重大な命令違反があったと航海日誌に記載します」


  ニーナ・ニオール提督の怒り心頭に発した言葉に、廊下で群れていたその「違反容疑濃厚」の兵士たちは、互いの顔を見合って肩をすくめた。せっかく手に入れた写真を隠すのか捨てるかしなくてはならない。


  「…と、このような状態になっています。少尉殿」 言ったケイティ軍曹の口元がにやりと笑いにゆがむ。その無遠慮な視線にさらされて、エディエルはにわかに素っ裸になったような錯覚を覚えてかがめた身体をさらに小さくした。
  「少尉殿はすでに軍内での身分を回復されておられます。このまま懲罰房でゲスな輩の被写体になっているよりは、提督のおっしゃるように専任副官に復職なさったほうがよいのではありませんか?」
  「…それは」
  「兵の規律を引き締めるためにも、少尉殿にはちゃんとした衣服を身につけていただきたいものであります。これは警衛隊からの要望であります」
  「……」


  弱々しくなったエディエルの声に、ケイティはにんまりと笑うと、ふたたび提督に敬礼する。「失礼いたします!」 ケイティ軍曹と目線の合ったニーナは、檻のなかからかき集めた何枚かの写真をポケットに突っ込みながら、不機嫌そうに「ご苦労」 と言った。


  「エディエル・ヴィンチ少尉。すみやかに副官の職に復して、身なりを改めなさい。これは命令です」


  自分のものであるはずの少年が、部下たちに汚されたような強迫観念を覚えたのだろう、少しきつくなったニーナ・ニオール提督の口調に、ケイティ軍曹は「最初からそうすればいいんですよ」とひとりごちた。
  返答に迷うようであったエディエルであったが、ややして房のなかで立ち上がり、学校で教えられたとおりのきちんとした敬礼を返した。


  「エディエル・ヴィンチ少尉、復職させていただきます!」


  みずから檻を出てきた少年を抱きしめたいのをぐっとこらえるように、ニーナの手がこぶしを握ってかすかに震える。気持ちを吹っ切るようにひとつ深呼吸して、ニーナは少年の背を押した。


  「提督」


  ニーナの手が遠慮がちに腰に回るのを気にしながら、エディエルは彼女の膨らんだポケットを見つめて申し出た。


  「よろしければ、その写真は自分が処分いたしますが」
  「あ…いや、これはわたしのほうで処分します。それより誰か、少尉の制服を持ってこさせなさい! わたしの専任副官にこんな姿で艦内を歩かせるつもりなの!」
  「こんな姿」と指摘されて、エディエルの手が不安げにニーナの身体にしがみつく。とたんにニーナ・ニオール提督は破顔した。クンロン・シンジケートの海賊たちを、眉根ひとつ動かさず殲滅した宇宙軍の勇将が、たったひとりの少年の動向に一喜一憂する。モンク人がキャッツランド人の性向をなかなか理解できなかったのはやむをえないことであっただろう。




  * * *




  第九艦隊の攻撃目標はモンク星防衛艦隊が拠点とする、彼の星系の最外縁惑星エイプ星である。惑星というよりは小惑星といったほうが正しい、直径百キロにも満たないいびつな形の天体である。その惑星に敵の艦隊が集結しつつあり、前線を支えるだけの膨大な物資が運び込まれているという。
  ニーナ・ニオール提督率いる第九艦隊の任務は、敵艦隊の集結前にこの前線基地をひと叩きし、敵の兵站に負荷をかけることにある。国力、軍事力ともに敵国を圧倒するキャッツランドであるが、国民的アイドルの少年を奪われた彼女らに、おさおさ油断はない。今回先陣を切ることになった第九艦隊ひとつをとっても、その艦艇数は二千に及ぶ。最新、かつ最精鋭の艦艇群であり、単純に数だけをとってもモンク星宙軍の推定保有艦数の三割にも達する。ニーナ・ニオール提督は前線基地を叩くのみならず、集結を完了する前の敵艦隊をも蹴散らすつもりでいる。彼女とその艦隊には、それを実行するだけの戦意と能力が十二分に備えられていた。
  モンク星系のその最外縁まで、二○光年の距離がある。長距離界面跳躍を繰り返しても三○日の道のりである。外洋航海中のお決まりともいうべき、模擬戦闘訓練が連日のように繰り返され、士官たちは声をからしておのれの部下たちを叱咤した。


  「右舷砲手、二から八番、配置完了しました!」
  「左舷砲手、一から七番、ただいま完了いたしました!」
  「左舷班、なにをもたもたしている! あと十秒タイムを縮めろ! バタフライ隊、配置まだか!」


  艦艇というハードウェアがどれほど優れていても、結局それを運用する兵士の質いかんで、実際に艦が発揮しうる能力に差が生じる。常日頃から兵士の練度を高め、これを維持することが宙軍士官たるものの職務である……キャッツランド宙軍ではもはや信仰に近い域でそう認識されている。
  いついかなるときにも、たとえ就寝中だろうが食事中だろうが、不意打ちのように戦闘訓練が始められる。兵士たちの不満と疲労は目に見えて蓄積されていくようだが、士官たちはそんな兆候など目に入らぬとでもいうように、部下たちを過酷な反復訓練に駆り立てる。
  キャットウォークと呼ばれる艦内周回通路に、何百もの兵士がいっせいに駆け出して、各々の配置場所へと収まっていくさまは、兵士ひとりひとりが精緻な戦闘機械のようで一種機能美的な美しさを持っている。通常、そうした訓練を担当するのは下士官たちで、艦隊司令部に所属するような高級士官は参加などしないものだが、ここ第九艦隊ではニーナ・ニオール提督みずからがよく訓練を見てまわる。
  ニーナは驚くほど大勢の部下の名を知っている。百人からいる下士官ばかりか、その下の兵卒に至るまで、乗員全員を覚えているのではないかと思うぐらい彼女の記憶の引出しには人名が詰まっているのだ。たまに通りかかるニーナに名前を呼ばれたりすると、兵士はたいていネズミに手をかじられたネコのように驚いた顔をする。そして心からの敬礼を返した。
  第九艦隊旗艦カーリカーンの全長は約二キロ。ニーナ・ニオール提督の出没する場所が広範囲にわたるといえども、そのひとつの街がすっぽりと収まりそうな巨大な艦体の隅々まで見回っているわけではない。キャットウォークを一周するだけでも「散歩」というには距離がありすぎる。たいてい提督のプライベートルームと執務室、艦橋とを結ぶ通路とその周辺が、提督の好んで見回る場所といえた。ゆえに「提督をよく見かける」兵士の所属部署もその辺の砲手班であったり警衛隊、艦体のわりと中央部にある大小いくつかある食堂の主ともいえるコック長とその部下たち、それにそこに出入りする主計長以下物資関係者などである。


  「ナハル伍長、珍しい場所で会ったわね。貴官があの薄暗くてごちゃごちゃしている船底の縄張りから出てくるとはどういう風のふきまわしかしら」
  「カッツェ主計長から頼まれまして……あたしゃイヤだっていったんだけどねぇ」


  年齢が分かりづらいキャッツランド人にしても大分と年のいったほうだと分かる、小柄でずんぐりした老兵が、抱えたケースを足元に置いてやれやれといった感じで腰をさすった。そのうしろには、彼女の部下らしい若い兵士たちが四人ほど同じケースを片手で抱えて空いた手のほうで敬礼している。


  「最近このあたりで、珍しい顔をよく見るわね。人もなにやら多いみたいだし」


  ぶつぶついう提督の横で、新任の初々しい副官が、上官のなすこと一つ一つを真剣そのものの眼差しで観察している。少しでも早くおのれの仕える上官の人となりを把握しようとしているのだろう。
  じろじろと何かを眺めているのはナハル伍長以下船底ブロックの主計隊五名も同様である。むろん、彼らが熱心に眺めているのは提督の新任副官である。ニーナ・ニオール提督の視線がそれるや肘で小突きあっている主計隊員たちから、「噂通りだ」だの「たまんないわね」だのささやきが漏れてくるのは、彼女らの真の目的がこの副官をひと目拝むことであることの証左であるといえる。もし許可されるものなら、写真を撮りまくったかもしれない。
  首をかしげながら、「出勤」途中の艦隊司令官とその副官は、艦橋へと通路を歩き出す。その主従の背中を見送りながら、老伍長ナハルは白いものの混ざった髪を束ねるゴム輪を引き上げた。「こりゃあたしかに目の保養だ」
  食堂に運ぶはずであったケースを抱えなおして、ナハル隊は来た道を戻り始めた。中身の入っていない空箱は、軽いがいかにも邪魔であった。
  彼女らのような見物人がこのごろ増えているのは、ニーナの感じたとおりにたしかに事実であった。「噂の美少年副官」を見物すべく、無理に用事を作ってやってくる一見の者もいれば、ストーカーまがいに提督のスケジュールを調べ上げて行く先々に先回りする非常に熱心な輩までいたりする。


  「あんなきれいな男を、提督は毎晩好きにしてるのかぁ」
  「あの可愛いボウヤ相手に、あんなにしたりこんなにしたり……ああ、庶民の夢ね。あたいらにも少しぐらいおすそ分けしてくれないかしら?」
  「生写真一枚五○ビマータだって。…え、見つかったら鞭打ち? うひゃあ」


  下級兵士たちの反応といえばたいていこんなもの。キャッツランド的事情からかんがみれば、同国人の男性は非常に貴重でもあるし、またいかにもなよやかでで保護欲 (征服欲?)をそそる存在であったから、容易に彼女らのアイドルに祭り上げられる。しかも士官学校を卒業したばかりのうぶな少年ときている。多くのキャッツランド女が子供の頃から妄想の中で飼っている、究極に無垢な異性そのもののような存在なのだ。
  この美少年副官の生写真こそ提督の厳命で『艦隊内ご禁制』になってはいたけれども、要はそれ以外ならOKなのだろうとの都合のよい拡大解釈から、その他『関連グッズ』などがすみやかに艦隊地下マーケットに出回り始めているようである。むろんニーナ・ニオール艦隊司令官のあずかり知らぬことではあるが、食堂や艦体底部の倉庫群などがその取引場所として機能している。
  どこでどうやって手に入れたのか、髪の毛や手入れした爪の粉(キャッツランド人の爪の手入れは丁寧にヤスリで行われる)、怪しいところでは入浴済みのお湯や使用済みタオルなどが盛んにやり取りされる。マニア根性おそるべしである。


  「少尉の使用済み食器だよ。使われたてのほやほや。飲みさしのドリンクパックつき。なんでそいつがたったの三ビマータなんだよう」
  「本物かどうか分かったもんじゃないだろう? いちおうDNA鑑定もしてみなくちゃならないし。保険料、手数料をさっぴくとこんなもんさ。イヤなら引き取ってもらってぜんぜん構わないんだよ」


  そんな非合法マーケットが賑わう船底倉庫の一角、そのもっとも奥まった辺りにある空コンテナのひとつから、明かりが漏れている。あたりには非合法ドラッグの売人よろしく立ちんぼうで客を引いている者もいれば、物陰や空コンテナに露店を開いている者もある。
  おおげさでなく、ここでは紛れもなく非合法ドラッグも手に入るし、持ち込み禁止のアルコール類、マタタビなどの嗜好品も取引されている。


  「OK。その値段でいいよう。ホント、人の足元ばっか見るんだから」
  「…で、その金でいつものやつ買うのかい? バウンティ産の高級マタタビがあるんだけど」
  「叩いた分サービスしてね」


  その空コンテナは、マーケットでも「老舗」のひとつ、立てかけられた看板に書かれた名のとおり、「フーロンの店」という。
  店の主はフーロン・メセ。彼女があの下部甲板のボス、主計長カッツェ・ナコルの腹心、主計副長であることは、訪れる客なら誰もが知っている。
  『主計副長=物資管理者=横流し』、と非常に簡潔な構図で理解されるこの人物は、再三の警衛隊の内偵に尻尾をつかませず、つまようじ一本まで伝票に記載しているというカッツェ主計長の管理の網をもくぐり抜けて密輸を成功させる、その筋では非常に有名な存在であった。『艦内百貨店』の異名をとるフーロンの店は、禁制嗜好品のほか、いわゆる流行グッズの取引でも艦内最高の品揃えを誇る。
  グラム単位で小分けされた袋を取り出しながら、フーロンはずれたビン底眼鏡を指で直した。新しい客が入ってきた。


  「おや、タンダじゃないか。近頃顔見なかったと思ったら、いやに健康そうじゃないか。薬が抜けたのかい?」
  「フーさん、『副官殿グッズ』はあるかな」


  色白で腺病質な雰囲気をした痩せぎすの看護兵が、ちろりとそちらを見た店主の視線も見返さずに、店内の陳列商品を熱心に見回している。軍の備品に違いない剥き出しの振動蛍光管が吐き出す白い光がコンテナの内部を十分な明るさで照らし出している。


  「なんだ、おまえさんもあの少尉殿にお熱なクチかい。マタタビ嗅ぐのも忘れて、いまはなけなしの給料全部そっちにつぎ込んでるってわけかい? ほどほどにしとくんだね、あの子はおまえさんにゃ高嶺の花だよ」
  「あの子はかわいいねえ。見てるだけで、こうギュッと抱きしめたくなるよ。うん、小悪魔並みのかわいさだよ。…ねえ、あの子の『匂い系』はないの?」
  「相変わらず凝り始めるとコアんなるね。『ニオイ』っても、どれにだって多少はついてるし、普通に考えりゃ髪の毛あたりかね。あたしゃどっちかっていうと、こっちの『使用済み系』のほうがマニア向けに思えるけど。これなんかどうだい、たったいま入荷したばかりの飲みさしのドリンクパック……できたてのほやほやだよ」
  「飲んだばっかりって、今日の昼食の?」


  色白の面を真っ赤にして、タンダは先客を押しのけるようにカウンターにしがみついた。


  「あの子が本当に飲んだやつ? ホントにホント?」
  「まだDNA鑑定はしちゃいないけど、持ち込み客の言うことを一○○%信じればね」


  カウンターの上の三角形のパックを取り上げて、穴があくほど眺め回したタンダは、ちらりと先客を眺めて、「本当?」 とつぶやくように尋ねた。首筋の毛を逆立てて硬直しているその相手は、壊れたおもちゃのように首を縦に振った。


  「あんた、売る前に楽しんじゃいないよね? まさか」
  「してないよう! フーロンの店主はごまかせやしないよ!」
  「たぶん大丈夫だと思うよ。まさかあたしの鑑定を逃れられるなんて信じてる奴ぁ、飛び込みの一見客ぐらいさ。…どうだい、買うかい?」
  「いくら?」
  「一○○ビマータ」
  「ええっ!」


  同時に驚きの声をあげたのは客のふたりである。売ったほうは食器込みで三ビマータで買い叩かれたばかりであったし、買うつもりのほうはいきなり半月分の給料相当の価格を臆面もなく提示されたからである。


  「フーさん、そりゃあひどいよう。あたいはこっちの食器も込みで三ビマータで、売るときは一○○ビマータなのう?」
  「こんな配給のドリンクが一○○ビマータ! 高い、高いよ!」
  「いらないんなら、買わないし売らないよ」


  どちらからともなくちらりと目を交し合う客二人に、フーロンは抜け目なく釘をさす。


  「あたしを通さずに妙な取引をしたら、今後このマーケットに出入りさせないよ。当然、この店にも出入り禁止だ」


  艦内地下マーケットの元締めも同然のフーロンの言葉に、客たちはあきらめのため息をついて頷いた。この地下マーケットの出入りを差し止められたら、彼女らのようなコアな人々は精神的に日干しにされてしまう。


  「売るよう」
  「OK、買うよ。その食器のほうもサービスでつけてくれたら」


  取引が成立したと見るや、フーロンは満足げに相好を崩した。宙軍兵士としての彼女の給料などたかが知れている。彼女はこの裏家業によって、それに数十倍する収入を得ているのだ。
  そんなに商才があるのなら、さっさと軍隊など辞めて独立商人になればよさそうなものだが、彼女いわく「軍隊内だからこんなおいしい商売ができる」 ということであるらしい。たしかにシャバでは考えられない恐ろしく高いマージンを抜いているのだから、本心からの言葉である可能性はきわめて高い。
  『艦内百貨店』と異名をとるフーロンの店の店主は、わずかな時間で粗利率九七%の商いを成功させて、マタタビを嗅いだネコのようににんまりしていたが、彼女の商人魂はそれだけでは満足しないのか、財布の中身の乏しそうな客らに怪しげなアルバイトをささやいた。


  「少尉殿のオールヌードなら、三○○ビマータ、使用済み下着なら一○○ビマータ、提督とくんずほぐれつの盗撮画像なら一○○○は出すよ。気が向いたらまたこの店に売りにおいで」
  「一○○○!」


  貧乏兵士は二人とも飛び上がった。


  「本当? 本当?」
  「ものによっちゃ、もっと出したっていいよ」


  目をギラギラと輝かして店を出て行く二人を見送って、フーロンはほくそえむ。
  これで一段とエスカレートした『少尉殿グッズ』が市場に流れ出してくることであろう。そうした刺激的な新商品が出回ることによって、彼女の地下マーケットもよりいっそう活気を得て潤うのだ。そのための多少の出資は、彼女にとって非常に大切な先行投資のひとつであった。









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